本日のレビュー:「僕が恐竜だったころ」

知る人ぞ知る、児童文学界のトラウマメーカー、三田村信行の作品(「おとうさんがいっぱい」とかでググれば、一発で分かります)。そして「今後『貴方の人生に影響を与えた本を3冊選びなさい』と聞かれたら、絶対『これまでの2冊 & 本作』と答える」と、ひそかに自分が固く誓っている本です。
お話は「恐竜博に行った主人公が、見知らぬ老人に『本物の恐竜を見たくないか』と聞かれ、ついていくと……」というお話。基本的に児童文学なので(というと物議をかもし出しそうだけど)膨大な裏設定や複雑に絡み合うプロットは存在しません。「背景に広がる広大な世界観に燃える」人よりも「少年の目線から、物語の世界に入りたい」人にオススメです。まず、キャラがかっこいい。何とこの本、ヒロインが恐竜です。しかも、こおなご。いやそれはどうでもいい。他にも「包丁振り回すヤンデレ熟女」とか「マッドサイエンティスト通り越してキ印」とか盛りだくさんです。いや、これもどうでもいい。とにかく、読み終わった瞬間に「モスに行こう。マックじゃなく」と思うぐらい、キャラがかっこいい。
そして、本作の白眉は「シナリオの節々に現れる毒」これに尽きます。一見どこにでもあるファンタジーSF風味に見せつつも、要所要所で毒を織り交ぜつつ話を進めていく。読み勧めるに連れて物語の緊張感は高まり、そしてクライマックスにて全ての謎は解決し、とみせかけて実は……。語りたい、語りつくしたいけれどネタバレになってしまう、このジレンマ。もう、読んでくださいとしか。
残念ながら、本作はただ今好評絶版中のようです。ただ、市や区の図書館に結構おいてあるので、入手はそれほど難しくないかと。そして、児童文学なので難しい表現も無く、スラスラ読んでいけます。是非、機会があったら手にとって見てください。